宣伝のチラシを見ると「秘仏降臨」と書いてあって、不動明王像が厳しいお顔でこちらを睨んでいる。
どんな感じなんだろうと、恐る恐るのぞいてみると…
大日如来像から始まり、不動明王像も愛染明王像も、おどろおどろしいというよりは、温か味のある厳しさと、むしろ清々しさを感じました。
でもね。
平日の昼間、ゆっくり見ていると、傍らに欄干のような柵から身を乗り出さんばかりにして食い入るように見つめているおじ様がいる。
白髪交じりのあごまでのワンレングスヘア、グレーのツイードっぽいジャケット。
なんか、曰くありげな、物でも書きそうな、先ずサラリーマンはやったことがなさそうな人。
次のコーナーに来ると、あれ、さっき追い越したはずなのに、同じ人が今度は少し離れた位置から全体を真剣に見ている。
いや、背丈が違う。今度の人は背が高い。でも、白髪交じりの長髪で、先ずサラリーマンはやったことがなさそうな人。
ふと振り返ると、似たような人があっちにも、向こうにもいる。外ではあまり見かけないタイプだと思うのだけれど。
振り返ると、愛染明王像の前には荷物を脇に置いて、一心不乱に手を合わせているおば様がいる。
さっきから壁際のベンチに腰掛けて、お腹の前で両手に野球帽を被せている人がいるんだけれど、印かなんかを組んでるのじゃないかという気分になってくる。
ベンチの反対側には、ぐっすり眠りこけていらっしゃるお姉さまがいる。
よく、ここで眠れるなぁ。私には出来ない。
図像のコーナーへ来ると、神武寺の大威徳明王像をじっと見ているお兄さんがいる。
煤けて、よく見えないけれど、躍動感にあふれた図像。
私も、じっと目を凝らしていると、お兄さんはおもむろにポケットから単眼鏡を取り出してガラスに張り付いてしまった。
「秘仏降臨」かぁ。
そういえば私も、胎蔵界の大日如来坐像の結ぶ法界定印と、栄西禅師の頂相像の結ぶ定印と、左右の手の上下が反対だなぁ、と考えながら、それぞれの像の前で手のひらを上下に組み替えてみたりしちゃってたっけ。
国宝館に入って右奥にいらした来迎寺の如意輪観音像のような、穏やかな、何でも望みが叶ってしまったかのような、そういう人もいたのかも知れないけれど、気づかなかったなぁ。
実物はライトのあて具合か、もっと穏やかで神々しい感じでした。
何か、意味があるのだろうけれど、相手の足の親指を踏んでいるところがかわいらしかったです。
特別展「鎌倉×密教」
明日まで。